益子の中心から少し車を走らせて、大きな通りから細い道を進んでゆく。
道の行き止まり、木々に囲まれた静かな場所に現れる趣のある古民家。
石川県から移築したという家は民藝館さながら。
玄関にはいつも季節の花が飾られ、家の中は貴重なアフリカンアンティークや民藝などが見事に暮らしの中に溶け込んでいる。それらが日常の中にあるというのが何とも贅沢で興味深い。
いつ行ってもワクワクキョロキョロしてしまうお住まいです。
大きなスピーカーからジャスが流れ、テーブルに飾られた一つ一つが遊び心があって楽しい。布使いも素敵です。
親子で器を作っているとはいえ、作業はもちろん、作るものもそれぞれ異なります。
父と息子、互いにリスペクトし合いながらも、近付き過ぎない距離感がそこには感じられます。
「自分の器は益子っぽくないからねー」と笑う雅一(はじめ)さん。20代前半から収集してきたというアフリカンアンティークは圧巻。
また国や時代を越えて集められた品々からも、雅一さんの多彩な感性が感じ取れます。
雅一さんは益子焼というある種固定されたイメージに縛られることなく、粉引という白い器を益子で先駆けて作りはじめました。
形もどこか自由で、雅一さんが考案して”タス”と名付けられたカップは南窓窯の定番品。縦長のフォルムでゆるやかなカーブを描くおしゃれなカップは、フランス語で「自由」という意味を持つ。
その名の通り、お茶でもコーヒーでも、アイスやヨーグルトにも、用途を定めずに自由で楽しい。
雅一さんの器はシンプルで清く、そして手の温もりとおおらかさが感じられます。
不思議と盛り付けたい料理がスッと浮かんでくるのは、雅一さんご自身も日々の食卓で使っているというのも大きな理由でしょうか。
大きさや深さが本当に使いやすく、また色々な料理に幅広く使えます。
朝はサラダに、おやつには白玉を入れて、と出番も多くなります。
また「道具は愛でるためではなく、使うためにあるもの」と言うように、使う程に味わいを増してゆくのも魅力です。
お茶をいれて飲むのか、お酒なのか、使い方でも表情が異なり、まさしくその人の器に育ってゆきます。
古くなるのではなく、傷さえも景色になって趣が出てくる面白さは大量生産の器では感じられないこと。
そんな名品に囲まれて暮らす日々が日常である圭さん。物心つく前からアフリカの骨董品に囲まれていたこともあり、作り出す器も異国の雰囲気をまとっています。
高校卒業後は京都の茶道専門学校へ進み、お茶を極める道へ。
自然と器への興味も深まり、益子へ戻り濱田窯で修行を重ねたのちに、雅一さんの元で作陶を始めます。
圭さんは象嵌(ぞうがん)と呼ばれる技法に積極的に取り組んでいます。
削り取ったところへ色の違う土をはめ込む象嵌の技法はひび割れが出ることも珍しくない。言ってしまえば〈効率〉とは遠く離れた仕事でもあります。
それでも好きだからと、思いついた事はまずやってみるという圭さん。
柄もさまざまな表情でたのしい。また釉薬を変えてみたりと新たな試みにも積極的です。
この夏にはアフリカを初めて訪れ、見た事のない現地の焼き物やクラフトに触れ、また作家との交流で刺激をたっぷり感じてきたそうです。
圭さんの器作りにもまた変化が現れるかもしれません。
また今、登り窯を復活させるべくそちらの準備にも忙しい日々だそうです。
今後がますます楽しみです。